自転車ロードレース出場顛末記 山田敦(S59政経)
 このところ夢中で自転車に乗っています。普段の練習の成果を試すべくこの8月、自転車レースに2回出場しました。いわゆるドロップハンドルの付いたロードバイク(ロードレーサー)という競技用自転車を使って一般道で行われるロードレースです。全く手前味噌なのですが、この一年の自転車生活と参加したロードレースについて報告させていただきます。

 長年スポーツとは全く無縁の生活を送ってきた私が本格的なロードバイクを突然、衝動買いしたのが昨年の9月。以来、雨が降らない限りほとんど毎朝、陽明山を中心に走り回っています。自転車は平地をただ漫然と漕いでいるだけでは残念ながらほとんど運動になりません。しかし、自分自身が爽快に感じられるような速いスピードで長時間走り続けたり、息苦しさを覚えながら長い坂道を登るととても効率の良い全身運動になります。私の場合、ロードバイクかもう一台のMTB(マウンテンバイク)で普段は天母の自宅からいくつかのルートを使って陽明山の中腹あたり(海抜400〜500mまで)登ることを日課としています。息を弾ませて、というよりはもがき苦しんでという感じでペダルを漕いで登ります。もちろん全身汗まみれです。そんなことして何が楽しいの?とお思いの方も多いでしょうが、やっている本人としては結構真剣です。タイムや心拍数を計測して上達というか身体能力の向上を確認しているわけです。その甲斐あってか、この1年で体重が8〜9キロ減りました。肝臓、コレステロール値、血圧など黄信号の多かった健康診断もすべて標準値になりました。食事、アルコールの制限は一切していません。たった一人でも楽しく遊んで健康になって全く言うことなしの自転車生活です。

 ところがロードバイクというのはそう簡単に乗りこなせるものではなく最初はわからないことばかり。低くて遠いハンドル、高くて硬いサドル、ビンディングでガッチリと固定された専用のシューズ。乗る度に体のあちこちが痛くなってもうそれは忍耐の世界でした。半年以上がんばって乗ってもなかなか体になじまない。これはやっぱりしっかりとポジションの設定や乗り方を教えてもらわないといけないな。ということで、今年の春先から地元自転車店のサイクリングクラブの走行会に参加するようになりました。日曜の早朝に午前中に帰着できるコースで天母からサイクリングに出るのですが、走行距離は50〜80Kmくらい。途中必ず2〜3ヶ所の峠越えが入ります。サイクリングと言うよりはロードレースの練習を兼ねたツーリングといった趣です。最初は恐々でした。毎回10人くらい参加するのですが皆いかにも自転車乗ってます、というアスリート青年ばかり。スマートなのに必要な筋肉が発達していてサイクリングウエア姿が、実にカッコいい。特大のヘルメットでお腹にムダな贅肉が付いてバランス悪いのはたった一人、この私。最初は上り坂で全然ついていけなくて必死で追いつこうともがいてばかりでした。それでも毎朝しつこく登り練習をしており練習時間は誰よりも多いせいか、最近では集団走行から何とか離れずに付いていけるようになってきました。正しいブレーキの使い方、ペダリングの方法、上りのコツ、など色々と教えてもらってロードバイクに乗ること自体がだんだん楽しく快適に感じられるようになってきました。

 そんな折、「山田さんも今度のレースに出てみたら。」と誘われたのです。社会人になってから、と言うより学生時代からスポーツで人と競い合った経験はまったくなし。自分はそんなつもりで自転車に乗っているわけじゃないよ、と断りたかったのですが、ここで身を引けば男がすたる。自分のようなオジサンを快く仲間に迎えてくれた若者たちの好意に応える意味で参加を決意しました。

 最初は8月15日の金山北海岸自転車レース。各地のアマチュアクラブチームが参加する台湾ナショナルチャンピオンシップシリーズの一戦。参加者は全国から集まります。翡翠湾をスタートして海岸線を金山経由で白沙湾まで25Km走って折り返し、再び金山まで戻った後に山側へ折れ、約6Kmで標高350mを駆け上がるトータル55Kmの難コース。何しろ初めてなので何をどう準備していったらよいのか全く分からない。炎天下に55kmを全力で走ることの意味自体が全くわからない。水はどれだけ持てばよいのか、スペアタイヤや修理工具は必要か。(これは不要。スプリントレースなので残念ながらパンクしたら終わり。)ビギナーだから遅いのはしょうがないとしても何とか最下位だけは免れたいなあ。

 まずはコースの試走からということで現地に出かけてみました。海岸線は向かい風にならなければ極めて快適な平坦路、ところが最後の登りセクションに入ってみてビックリ。これは何かの間違いではないのか、この激坂をロードバイクで登れというのか?ギアの軽いMTBでさえ躊躇したくなるような急坂。上りきった時には全身から流れ出る汗でシューズの中までずぶぬれ。こんな経験は初めてです。地図で確認する限り間違いなくこれがレースのコース。直前に家族を連れてクルマでもう一度下見をしたのですが、「パパ○んじゃうよ。」と二人の娘が声をそろえて言ったものです。でもな、やるしかないんだよ男は。以下は文体を変えてレースの実況です。

 レース当日は朝から快晴。こんな時ばかりは能天気な太陽が恨めしい。クラブの仲間とワゴン車に相乗りして翡翠湾へ向かう。前夜は不思議と良く眠れて体調は万全。ここ2日ばかり炭水化物中心の食事でエネルギーも十分蓄えたはず。車中では体のあちこちを入念にマッサージしながら緊張をほぐす。レース直前、最後の仕上げにアンパン1個を詰め込む。水のボトルは2本持った。16才から50台後半まで総勢238人が総合順位と5才刻みでのクラス順位を争う。日本人5名の他、外国人も数名。

 午前8時半、一斉にスタート。最初の2キロはペースランだが、ここでなるべく前方の良い位置をキープせよとの仲間からのアドバイス。心拍数はこの時点で既に170を超えている。これは普段上り坂でがんばっている時の数字。クルマのエンジンで言えばイエローゾーン、最大出力が出る辺りだろう。ただし息苦しさは全くなく、心臓と脳が離れ離れになったような不思議な感覚。多分、極度の緊張感で必要以上に脈が上がっているせいだと思う。ペースランが終わると一気にハイスピードの集団走行に。空気抵抗が弱まり前進気流が発生するので自分一人ではありえないような高速走行が可能だ。追い風では平地でも50km近く出ている。(とは言ってももちろん自分はそんなの初めての経験で心から感動、ビックリ。)前走車の後輪と自分の前輪が接触すると一気に弾き飛ばされて落車することもあるらしい。ほとんど車間距離なく集団で走るためタイヤとタイヤが接触しそうで怖い。なぜ場違いな自分がこんな先頭集団の中にいるのか。こんなペースでついて行けるわけがない。でも止まらない。

 白沙湾の折り返し点を100人くらいになった先頭集団とともにUターン。向かい風になった瞬間に上位グループが動いた。一気に加速。あれよあれよという間に集団がちぎれるようにバラけた。もはやここまでか、何人にも抜かれながら必死のペダリング。目標となるペースメーカーを前走者にその直後について風圧を避けて走るのがロードレースのセオリー。ところが気がついてみると前にも後にも誰もいない。何とか前走グループに追いつきたいが向かい風で思うようにスピードに乗れない。苦しい。走りながら高カロリーのゼリー飲料でグリコーゲン補給。金山からの上りセクションに折れてやっと前走者数名に追いつく。

 次のチャンスはあの激坂。案の定、前を行く何人かの選手がよろよろとジグザグ登坂。自転車を降りている選手も2人ほど。脇の谷川で水をかぶっているのはチームメートの小春君。いつもはあんなに速いのにどうした。自分も心拍数が190ほどで限界に近い。その後もゴールまですべて上り。しかし、毎日上り練習をしている自分にとってこの坂は多少なりとも有利かも。最後の坂、路面にスプレーで白く「GO、GO、加油、加油!」の文字。心拍数はとうとう未体験の200を超えた。これはもう間違いなくレッドゾーンだ。危険だがこれが最後と気合を入れて3人ほどを抜く。結局上りで一人も抜かれず12人抜いてゴール。1時間40分3秒。総合順位238人中86位、40−44才クラス25人中7位。(惜しくも6位入賞を逃す。)結果は自分としては出来すぎ。「山田さんなかなかやるじゃん!」と仲間に冷やかされつつ充実の初レースを無事終える。

 北海岸での初レースに味をしめた私はその翌週8月22日の烏来抜刀爾山ロードレースにも急遽エントリー。新店から烏来まで新店渓沿いにアップダウンの多いワインディングロードを約20km、上り標高差200mを走り、烏来からはわずか5kmでさらに標高差350mを登りつめるヒルクライムコース。2回目なので緊張感はないがやはりコースの試走は欠かせない。台風が来る前にとクラブで最も速い楊君20才を従えて烏来へ出かけた。この楊君、体育大学で本格的な自転車選手になることを目指している受験生だ。ルックスもアイドルタレントみたいで言うことなし、それは全く関係ないか。この日、楊君には上りでの呼吸方法や体の上下動などについていろいろと教えてもらったのでお礼に昼飯をおごる。

 2回目なので少し余裕が出た私は今回いろいろと策を練った。まず、木曜日にもう一度コースを試走した後、金、土の2日間は敢えて自転車に乗るのを我慢して体を休める。ただ休むだけだからこれは簡単だ。また水分、栄養補給にも知恵を絞った。前回は水を600cc×2本持ったのだが、やはり気になるのは運動のエネルギー源となるグリコーゲンの急速補給。ゼリー飲料も走行中はやや飲みにくかったので今回は水2本の内の1本をスペシャルドリンクにしよう。というわけでレース前夜、コンビ二で買ったポカリスエットを一口飲んで減らしてからそこにたっぷりとハチミツを注ぎ込んだ。ハチミツの色がはっきりとわかるほどに。飲んでみると、甘くて何ともいえずおいしい。「ねえ、ポカリってスポーツ選手は薄めて飲むんじゃないの?」という長女の言葉など全く耳に入らないレース前の私。このことがあとで思わぬ墓穴を掘ることになろうとは全く知る由もなかった。

 さあ2回目のレース当日。この日も晴れ。スタート地点に集まった137人の参加者。その多くは前週と同じ顔ぶれ。参加者が少ないのでひょっとして6位入賞が狙えるかも。午前7時半スタート。白バイの先導で新店市内を約2キロのペースランの後、一気に加速。今回も良い位置をキープして集団について行こう、と思いきや、スタート直後の長い上り坂で先頭集団はアっという間に離れていく。自分はそのスピードについて行けずギア選択もペダリングもメチャメチャ。平坦部分がほとんどないこのコースをどう走ってよいのか全くわからないギクシャクした状態。体が思うように動かない。このままじゃマズイ。よしっ、スペシャルドリンクでグリコーゲンの高速補給だ。ボトルからノドへ液体を流し込む。ところがなぜか液体はノドの奥へ入っていかない。胸焼けのような状態になってとてもじゃないがこれは飲めない。ああ情けなや。激しい運動中の体が高糖度の液体を受けつけないということに思い及ばなかった自分のアホさ加減にあきれる。悲しいかなスポーツの実体験が不足しているのでこういうことになる。

 最後の急登坂セクションにさしかかった時点ではもうかなり消耗していた。頼りの水も残り少ない。スペシャルはたっぷり残っているのに。こうなると得意のはずの上りも抜かれないのが精一杯。心拍数は前回のように上がらず180くらいが上限。どうしたんだよ、俺は。やっとの思いでゴールにたどり着く。1時間4分20秒、総合順位137人中84位、クラス順位15人中7位。今回は不完全燃焼。敗因は二つ。スペシャルドリンクの失敗は前述の通り。もう一つはウエイトオーバー。2日間休息を取って筋肉を休めたのは良いが実はこの間に体重が1〜1.5キロ増えていたと思う。ただでさえまわりの参加者より太っている自分にとって体重増は何よりの大敵。反省ばかりの一日だった。

 8月最後の日曜日、クラブのサイクリングで台北縣平渓へ出かけました。走行距離は75kmとやや長め。この日の参加者は7人。初参加は来台わずか4週間、イギリス生まれのアメリカ人ビジネスマン、サイモンとアマチュアトライアスリートの何先生。あとはいつものメンバー。今年は相次ぐ台風の上陸で多少大気温が下がったせいか、早朝はもう秋のような涼しさ。天母から内湖、汐止と流してから汐平公路へ。標高500mの峠でヒルクライム競争。レースじゃないから最初はみんな和気あいあい。ところが最後は必死の形相で頂上を目指す。2回のレースを経験して少しは成長したのか、私もかなり良いペースで上りをこなせるようになってきたようです。峠を下った先の平渓から台北へ戻る縣道106号は10数キロにわたり緩やかなアップダウンを繰り返す正にロードバイクのためにあるような道。ここではスプリント練習。先頭に遅れまい、ちぎれまいと必死にペダルを漕ぐ。何とか離されずに食い下がり休憩ポイントでは後続を待つ。リーダーの黄先生から「山田さん速くなったねえ。」と言われてちょっと良い気持ち。

 不肖、山田敦、心から思います。あー、自転車は楽しい。
レースの様子、結果は下記のホームページに掲載中。
中華民国自行車騎士協会 http://www.cyclist.org.tw/

<編集部記>文中の画像はレース模様です。ご本人が写っているかも(?)しれません。
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